Food love letter vol.14「西洋なし」

いつもグラスミュゼをご愛顧くださり誠にありがとうございます。毎月19日(食育の日)に、1級眼鏡作製技能士であり食育を生業にしてきた野菜ソムリエ上級プロのyukiから大とか切なお客様や業界関係者の方々など皆様に日々の食をよりお楽しみいただければと始めましたFood love letter 、よかったら今月もお付き合いいただけましたら幸せです。

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店休日と重なったことから9月号はお休みでしたが、10月も後半になったらさすがに秋らしくなっているはずと思っていたものの今日の東京の最高気温は30℃!さすがに驚くばかりです。栽培にあたってはそんな気温の影響を受けつつも、これからの時期に是非お楽しみいただきたい西洋なしを今月のテーマにしてみました。少しでもお役立ていただける発見などありましたら嬉しいです。

「なし」というと多くの日本人が思い浮かべるのは「和梨」かと思いますが、もしかすると「西洋なし」という方もいらっしゃるでしょうか。また、殆ど見かけることはりませんが「中国なし」もあります。そろそろ今シーズンも結びの和梨は“サンドペアー(砂梨)”とも言って、瑞々しさとザラザラ&ザクッとした食感が魅力です。対して西洋なしは“バターペアー”とも。ベストコンディションでいただくことでトロリとした食感を楽しむことができることからそう呼ばれています。

この [西洋なしはベストコンディションでいただけば] というのが今日のポイント。なぜならば例外を除いて、同じなしでも和梨のように買ってきてすぐに食べるのがベストという訳ではないからです。(例外:西洋なしの場合、お店で食べ頃を売っていることも全くないとも言えませんが、それはすぐに食べた方がいい状態とも言えます)

以下お読みいただき今シーズンからは是非ともベストなタイミングで益々おいしい西洋なしを味わっていただけたら幸せです。

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【西洋なしの食べ頃サイン】

・両手で包むように持ってみたとき、果皮がしっとりしていて吸い付くようなイメージになったら。(ご自分の肌が保湿充分で、いい状態のときをイメージしてください)

・軸周辺のあたりをそっと押してみて柔らかくなっていたら。(くれぐれも押しすぎないように。店頭で押すのは厳禁です)

・甘くて芳しい薫りが室内に漂ってきたら。

【食べ頃を迎えるために、買ってきたらすること】

お気に入りのお皿に載せてテーブル等に飾っておく。(洗ったり切ったりせずに、そのまま室温に置いておきます)

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ここからはちょっとマニアックなお話です。

西洋なしが国策として日本に導入されたのは、明治初期のこと。それはりんごと同じタイミングだったのですが、「食べ頃を待って食べる必要があるかどうか(追熟させる必要があるかどうか・1)」が、その後の国内での明暗を分けたとも言われています。ただでさえ作るのが難しい西洋なし、何とか作ってみたものの収穫しても石のように堅くて食べられたものではないとがっかりするも、捨てるのも忍びなく納戸に放っておいたら甘く芳しい香しがしてきたので試しに食べてみたらトロリとってもおいしくなっていた・・・という、そんな果物なのです。

野菜ソムリエになってからふと気づいたのですが、食卓を描いた西洋の油絵(静物画)には西洋なしが結構な頻度で登場しています。セザンヌなどは教科書にも載っていたのではないでしょうか。多分、描くためにわざわざ飾ったというよりは、日頃から食べ頃まで(追熟させるために)置いていたのではないかと思っています。いずれにしても目で見て眺めて、食べるまでの時間も、品種によって本当に様々な西洋なしの色形も楽しんでいたら素敵だなと思いますし、皆様にも是非お勧めしたい楽しみ方の一つです。

ちなみに、ケーキなど洋菓子でもよく見かけるラ・フランスは西洋なしの品種名で、ほかにも様々な品種(種類)があります。ゼネラルレクラーク、オーロラ、バラード、コミス、ル・レクチェ、グランドチャンピョン、ウィンターネリス、コンファレンス、エル・ドラドなどなど、並べるときりがありません。もちろんそこまでの品種数ではありませんが段々とスーパーなどでも見かけるようになりましたし、今ではすっかりネット通販などでもいろいろな西洋なしが手に入るようになりました。

西洋なしは私達に、香りで「食べ頃だよ。おいしくなったよ」と教えてくれますから、そんな西洋なしの声にも耳を澄ませていただくことで西洋なしならではのトロリとろけるおいしさを味わっていただけたらと思います。

(1・学術分類上はりんごもクリマクテリック型果実です)

野菜ソムリエ上級プロ、西洋なしフォーラム実行委員

&1級眼鏡作製技能士 秋山由季https://quatresaisons-ltd.jp/works/

(photo: 旅する西洋なし、TRACTIONの故郷でありフランス眼鏡の産地であるJuraからパリに戻る特急列車TGVの車窓を背景に。品種名:コンファレンス)